天地返しダイアログとは
本ダイアログは、人の五感、感情に焦点を当てた、未来志向の対話手法です。
COVIDをはじめとする不測の事態や不透明な環境に翻弄される未来から、自分たちが創りたい未来にシフトすることを可能にします。身近な変化情報を対話で洗い出しながら、自身が想像する未来像、そこから見える自身の観察バイアスにフォーカスを当てます。
参加者の視点を集めた未来像を元に、自身の考えや気づきを深く洞察することで、次につながる行動を、外部環境や自身の感情に翻弄されることなく導くことができます。
使うシーン例
- チームビルディング
- 部門や企業の統合や分散による疲弊の改善
- ビジョンを描く など
このダイアログはなぜ生まれたか、そこに込めた願い
私たち3人は、COVID-19によってこれまでの社会のあり方、生活、仕事など様々なことが大きく変わっていく中で、どこか、閉塞感や分断、軋轢を感じながら、その気持ち、思いをぶつけられずに家の中でただただ、過ごしている日々が続きました。
我慢が続くなか、COVID-19の感染者は急速に増え続けていた時、虐待や、感染者や医療従事者への差別的行動など様々な副反応的な出来事も起こりました。
これらの現象の背後には、冒頭に我々が感じていたように、感情が行き場がなく暴走していることがあるようにも感じられました。そこには自分の感情としっかり向き合い、繋がることを避けることで逆に感情に振り回されるメカニズムがあるように思います。無意識の内に「漠然とした不安」や「根拠のない楽観」の間で翻弄され、感情に支配されている。そんな人間の姿が COVID-19によってあぶり出されたようにも見えます。
これはCOVID-19によって表に出てしまっただけで、現代では実は常にあったことなのかもしれません。
科学技術の進歩によって、論理や事柄の善悪、インパクトの大小によってでしか価値判断ができない世の中では、”感情は無きもの、もしくは「自己責任」で管理をするもの”とされているように思います。それにより、五感や心情を認知し、その上で行動を選択するという、人間に本能的に備わっている普遍的なプロセスを、我々は忘れてしまっているのではないでしょうか。
なぜ感情と繋がることが大事なのでしょうか。
それは、感情が(見たいとする)事実の選択に影響を与えているからです。すなわち、私たちが見る世界、視点は、全て感情の影響を免れることはできないのです。
そうであるならば、感情を言葉に出すことで認知する(繋がる)ことは、一人ひとりが見ようとする世界をできるだけ客観的に、広く捉えるために不可欠であると言えるでしょう。
では、どうしたら感情と繋がりながら、理性的に物事を見ることができるのでしょうか。
一つは、自分の感情を”良い、悪い”の評価判断をすることなく言葉にしてみることです。それによって自分が何を感じているのか?を認識することができます。このプロセスを踏まえず我慢をし続けると人の感情は「腐敗」します。腐敗すると、結果として自分自身のメンタルに影響を与える可能性もありますし、抑えきれず漏れてしまった時には相手や周囲を傷つけてしまうこともあるでしょう。
ただし実際には腐敗の前に「言葉にしてみること」のプロセスを自分一人で試みることは容易ではありません。
そこで二つ目には、対話(ダイアログ)をすることです。安心安全な場の中で、言葉を出し合う対話(ダイアログ)が大事になります。
では、どういう対話が「感情と繋がりながら、理性的に物事を見ること」をもたらしてくれるのでしょうか。
- 自分の感情を認知すること
- 自分の感情と他人の感情を混ぜないこと
- 混ぜない中でも、相手の感情意見を触媒として気付きを得ていくこと
- 唯一解を作ろうとしないこと
この四つを意識しながら起こせる対話は、意見の違いのある個人個人が集まって、その違いを乗り越えて、多様性を知恵に変えながら共に進めるための「器」になります。
昨日の延長線上に未来を予測できない現在の状況において、可能な限り客観的に未来の可能性を見つめながら、同時に自身の今の感情ときちんとつながって行動を選択していく。それによって受動的に出来事や感情に翻弄されるのではなく、自分たちの手で人間らしい未来を創造していく。そんな姿を私たちは願っています。
シナリオプランニングトレーナー、システムコーチ、アジャイルコーチの3名の願いから、この「自分たちの今をしっかり見つめ、場を共にした人たち同士が関係性を築きながら共に未来への一歩を創り出す」ためのダイアログ手法が生み出されました。
心で見なくちゃ、ものごとはよく見えないってことさ。かんじんなことは、目に見えないんだよ。
ーサン=テグジュペリ
名前の由来)「天地返し」とは
天地返し(てんちがえし)とは、農耕分野の用語で、深耕し、耕地の表層と深層を入れ替えることです。有機物をたっぷり入れて、ざくざくと粗く耕し、塊のまま寒風にさらしておきます。寒さで病原菌や害虫が死滅する効果があります。また、これまでの利用による土の養分の偏りを緩和し、通気性・排水性を高めて土質を改善する事ができます(こちらを参照下さい)。そこから転じて、自身の状況や、感情、考えに行き詰まった時、そこに新しい風を入れ新しい一歩を踏み出す、という狙いと合っていることから名付けました。
このダイアログは何をもたらすか
- 未来の姿を多様な視点から捉えることで、客観的に事象を理解する力を育む
- 感情を大事に扱いつつも、支配されず、不安や困惑、違和感と向き合う場ができる
- 自身の内側から湧いてくる動機、エネルギー、ワクワクした思いから行動を起こすことができる
- 他者の意見、感情に刺激を受けながら、新しい一歩を踏み出すきっかけができる
ダイアログの全体を通した根本的な思想・前提となる考え方
- 可能性を信じる
- 人は本来その内側に可能性を創り出す力を持っている
- 人は集まり、協働することで、創り出す力を共に発揮することができる
- つながりと葛藤に目を向ける
- 創り出す力を発揮するためには自身が内側の感情と分断されているのではなく、きちんとつながっている必要がある
- 創り出す力が発揮されていない時、それを妨げている自分自身の葛藤に意識を向ける必要がある
- 集団の創り出す力が発揮されていない時、それを妨げている集団内の葛藤に意識を向ける必要がある
- 協働して創り出す力を発揮するために対話を使う
- お互いの共感的理解と、状況を客観的に把握することが必要である
- 「自分だけが正しい」という「心の天動説」(自分が世界の中心にいて世界が自分の周りを回っている)を手放す必要がある
- 希望も葛藤も(光も闇も)安全に共有される必要がある。様々な言葉の行き交いによって、畑の土が入れ替わるように「天地返し」が起こり、新たな視点、関係性や行動が生まれる
注:このプログラムの対話の本質とは?
- ①人間関係に「間合い」を創り出す
- 「自分との間合い」とは何か
武道でよく使われる言葉ですが「自分と相手との距離、空間」のことを言います。武道の中では、この空間をどのように処理するかが勝敗の分かれ目と言われています。相手も変化する中で、自分が有利になるために間合いを取る為には、まず「自分の間合いを知る」ことだそうです。
自分を知ることで、その後の動きを選択できるという点においては、このプログラムにも通ずるところがあります。
このプログラムでは、人々の内側にひめられた善悪などの規範意識、喜怒哀楽などの感情を踏まえることも大切にします。「辛さ」(居心地の悪さ、いづらさ、生き辛さ。聞き辛さ、受け止められ辛さ)は「恥ずかしいもの」「隠しておくもの」ではなく、「未来の創造への入り口」と意味づけます。
なんだかモヤモヤする、イライラする、悲しい、嬉しい、嫌気がするーー様々な感情を自分自身が知る時、また言葉にしてみることで発見する時、僅かながら「距離」があることに皆さんは気づくでしょうか。もし私たちが自分の感情を知れたら、”客観の位置”にいることができます。それではじめて「なぜ、その感情がやってきたのか、何が、私自身の心を動かしたのか?」という理由を問うことができます。そこから「行動を選択すること」につながるのです。
- 「相手との間合い」とは何か
相手が感じていること、捉えているものの見方を、「知る」。「共感」や「興味」をもって眺める。ということを実践します。そうすると、相手と「間」ができます。自分が相手に対して視点をもって(例えば、期待など)理解をしていることに気づきます。その気づきが感情に支配されずに創造するための一歩です。
- 「外部環境との間合い」とは何か
情報も、様々な視点で都合のいいように「切り取られて」います。それは国民文化、組織文化、個人の育った環境や教育など様々な背景が考えられます。同じニュースでも、自分の国と、他国では取り上げられ方が違うのはそのせいです。私たちは今から未来に向かって「どんな情報を」「どのような視点で理解するか」を冷静に選択する必要があります。他者との視点に触れた時、自身の視点や取捨選択している情報の裏にある「自身の見たい世界」「自身の感情や価値観」に気づくことも大いにあります。
- ②「間」をエネルギーに変える
間をエネルギーに変えるとは、具体的にどういったことなのでしょうか。安堵したり、悲観したり、様々なことがあるでしょうが、その感情は次につながるエネルギーでもあるのです。そのエネルギーを発動するために、以下を意識します
- 限られた視野の中で選択肢が見つからず、閉塞感を感じているかどうかに意識をしてみる
- 閉塞感からくるフラストレーション、さらには絶望感に苛まされている時、「あるべき」「正しさ」を追及しているのかどうかを認識する。
- 追求する内に、狭い視野に陥っていることに気づかなくなってしまってはいないか、を認識する。
- 日々のルーチンを回すことでその感覚を「見ないようにしている」ことへの意識をすることで、自分の「本当は感じているはずの」感覚と繋がり直す
- そこに「とどまりたくない」と思うなら、顔を上げて周りを見てみる。深呼吸をしてみる
- ③エネルギーを活かして、未来を創る一歩を踏み出す
「間」をエネルギーに変えて活かすことで、他人や環境に自分の未来を委ねるのではなく、自分にとって意味のある「未来の時間」を主体的に創り出すことができます。
- 1. 「論理的に正しいから(あるいは正しそうだから)」をいったん、立ち止まって眺める
- 2. 参加者の多様な視点から想像している情景を描き直す
- 自ら「希望」を抱くことの大切さについて
「願望」と「希望」という言葉について伝えてみたいと思います。「5年後の自分を計画しよう」の作者の言葉を借りると、願望と希望はまったく別ものです。希望は願望に勝ります。人が希望を抱くときには、将来について大いに期待すると同時に、期待どおりの未来を手に入れるために乗りこえなければならない壁もはっきり見えています。つまり、行動する準備ができているのです。いっぽうで、願望は努力を蝕むこともあります。願望を抱くだけでは、つい受け身になって、目標をかなえるのがむずかしくなるのです。
「希望とは世界の状態ではなく心の状態である。希望、この深く力強い感覚は、物事がうまくいっているときの喜びや成功が明らかな企業に投資する意欲などとはまったく異なるものだ。むしろ、価値があるという理由で働くことのできる能力である」
ーバーツラフ・ハヴェル
心がけ
- 健全な危機意識
「漠然とした不安」でも「根拠のない楽観」でもない「健全な危機意識」が未来を主体的に創り出せる
- 共感と興味
他者の意見や感情の背景にあるものに興味を持ち、共感できる部分には共感していく。事実や真実を否定したり、判断せずに受け入れる態度が共に未来を創っていく
- 「わからない」に居続ける
エビデンスやロジックは建設的議論には必須だが、人間が理解できている世界や宇宙の仕組みは部分に過ぎず、全てを「わかった」という態度はむしろ思い込みでしかない。複雑性が増す現代の社会では「わからない」ものをわかったことにせず「わからない」ままで取り扱える姿勢こそが地に足がついた未来を創る
原理原則
- 事柄と感情を分けて表出させる。またどちらも大切に扱う
- 無自覚 向けていなかった 見ていなかった 事象・視点に意識を向ける
- ストーリーを通して自分の世界観に気づく
- 未来のための行動と学習を行う
ダイアログの流れと意味
- 進め方と意図
タイムラインのシートに記載しています。こちらのリンクをご参照ください
- ファシリテーターのあり方
- 多様な視点を集める
新しい視点が出てきた時に、評価判断をしない
- 天と地をあぶり出す
ネガティブなものが見えても驚かない。むしろ促す
- 内省を促す
解答、解決に飛びつかない。立ち止まって感じる、考える
- エネルギーを見出し、最初の小さな一歩を踏み出すことを応援する
ネガティブだからって、諦めない。そこから生み出せることを好奇心をもって発見してみる
- ツール
当日使用するスライドはこちらです
宿題で使用するスライドはこちらです
- ご利用上のお願い
- このプログラムはどなたでも個人・商用に関わらず自由に利用することができます。ただし、著作権を放棄した訳ではありません。利用をする際は、出典の表記をお願いいたします。表記例:出典 Tenchi-Gaeshi Way (https://www.tenchi-gaeshi.org/)
- このプログラムコンテンツ自体を販売することはできません。

この プログラム は クリエイティブ・コモンズ 表示 - 改変禁止 4.0 国際 ライセンスの下に提供されています。
- 最後に
最後まで読んでいただき、誠にありがとうございます!
利用される方は、このダイアログ手法のより良い使い方があれば、ぜひ他の利用者のためにアイデアを共有することにご協力いただけたら幸いです(タイムラインシートの「知恵の輪」のタブにご記入ください)
また、未来創造ストーリーをこちらにアップロードすることができます。全く知らない別の人が描いた未来は、あなたの想像を超えた世界かもしれません!「皆それぞれが描く世界」を共通資産とし、「健全な危機意識」(多様な視点)を持つことができたら、これほど嬉しいことはありません。ご質問やサポートが必要でしたら、下記実践者コミュニティまでご連絡ください。(すぐのご返信ができないかもしれませんがご了承ください)
実践者学習グループ
※ファシリテーション設計書等も下記コミュニティ内で配布しております。
https://www.facebook.com/groups/179583927456051